ソフトウェア開発の会計実務Q&A
[ 年次決算資料(株主総会・税務申告)
Q44. 試験研究費総額の税額控除とるためにはどうしたら良いでしょうか?
:当社は販売目的のソフトと自社利用のソフトを開発しております。明確なプロジェクトを組む前の人件費をどのような会計処理すべきか考えております。当社には専属の研究開発部門はなく、現状のプロジェクトの開発の傍ら新しい市場や製品を狙って研究を行っております。当社のような場合でも試験研究費の税額控除を採用することはできますでしょうか?
A44. 結論:法人税法上の要件をクリアすれば税額控除は可能と考えます。
説明:試験研究費の税額控除制度とは試験研究費の総額(対前期比較なし)が対象となる制度と試験研究費額が前年より増加した場合の増加額が対象となる制度とがあります。平成18年4月1日以降開始事業年度から2年間は両者の併用が認められています。
そもそも試験研究費とは、会計上の概念では、販売目的ソフトだとベータ版完成までの費用や自己使用ソフトでは将来の収益獲得・費用の削減が明らかになる以前に発生した費用が試験研究費として計上されます。しかし法人税法上税額控除の対象になるべき試験研究費額はもっと狭い概念です。
次に税務上のメリットを受けるためには、試験研究費は会社内部の処理ですのでそれを客観的に説明しなければなりません。その為には内部承認制度を運用して資料を保存しておくことが望まれます。ソフト業の場合、役職者の承認のもとに研究テーマの承認の開発申請を行い、その時点よりテーマ毎に原価を集計します。それはテーマの完成を見て終了し、その後製造開発の工番を取り設計作業を開始した時点からが製造原価資産計上とするのが実務的に一般と考えます。内部書類ついてはQ&A33自社利用ソフト開発の書類を参照してください。
纏めますと税務上の試験研究費は
@ 独立した研究開発セクションがあって、なくとも専ら従事する者を特定するために他の業務と試験研究業務を区別するためにタイムシートで業務内容を明確にし
A 「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に係る企画・開発のテーマを持ち、
B 製品化する前のコストをテーマ毎に集計した費用。
ということができると思います。
以下条件等概要を整頓してみました。なお、中小企業は中小企業技術基盤強化税制で同様な制度があります。
試験研究費 総額の税額控除制度と増加額の税額控除制度
平成18年4月1日以降は両者の併用可能なため両者併せて試験研究費総額の税額控除制度と言われています。
内容 |
試験研究費総額の税額控除制度 |
試験研究費増加額の税額控除制度 |
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制度の概要 |
試験研究費の10%程度(下記計算有)を税額控除として納めるべき税額から控除(所得に対する税額の20%迄)できる制度。 |
当期の試験研究費額が比較研究費額(過去3年の平均)より増加した場合に、その増加額に5%乗じた額を税額控除として納めるべき税額から控除できる制度。 |
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対象期間 |
期間の制限ありません。 |
平成18年4月1日〜平成20年3月31日開始事業年度。 |
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両者の併用 |
平成18年4月1日以降は併用可能。従い、両者併せて所得に対する税額の20%迄が限度となります。 |
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適用対象企業 |
青色申告を行う法人(で試験研究を行っていること) |
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対象の定義 |
@試験研究費は「基礎研究」「応用研究」「工業化研究」から成ります。 A本制度の試験研究費は、「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に係る試験研究のために要する費用で損金経理された原材料費・人件費・経費を言います。これは、{工学的・自然科学的な基礎研究・応用研究及び開発工業化等を意味し、必ずしも新製品や新技術に限らず、現在製造中の技術改良中でも対象となる。事務効率等の人文社会科学系は入らない。} B「基礎研究」は「新製品の製造・新技術の発明等であり、当該法人における従来の製品技術とは構造・性能・原理等が全く異なる製品・技術」の為の特別の支出で、繰延資産に該当する。この費用も損金経理された時点で償却額が本制度の対象となる。なお任意償却なので支出時損金算入すれば全額対象となります。 C「工業化研究」は原則原価計上で試験研究費の範囲には含まれません。
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繰越制度 |
繰越可能。中小企業の判定は繰越時の資本金による。 |
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税務添付書類 |
確定申告書に「特別控除額の記載及び計算に関する明細書(別表六(六)〜(八))」を添付。 |
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選択 |
@大会社(資本金1億円超)は本制度との比較となる制度はない。 A大会社以外は本制度並びに中小企業基盤強化税制との比較となる。 B増加試験研究費制度は「比較試験研究費の額に比して増加した額×5%」(税額の12%が限度) C試験研究費総額制度と中小企業基盤強化税制
C中小企業基盤強化税制を適用する場合には、試験研究費総額制度は適用できない(措置法42の4)。 *なお、上記表のとおり中小企業は定額分について2%余計に控除できますので、中小企業基盤強化税制を採用した方が得となります。 |
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計算式 |
@試験研究費額×試験研究費割合 A試験研究費割合=「当該事業年度の試験研究費の額」÷「当該事業年度を含む過去4年の平均売上金額」 |
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人件費の取扱い |
「専ら従事する者」に以下の条件で兼務が含まれることになっています。 @一定期間(20日程度)は専従A該当者が開発に不可欠B人件費計算が適正に行われていること。が条件になっています。 |
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工番 |
開発テーマ毎に人件費を把握する以上、工番に材料費・人件費・経費を集計する必要があります。 |